果菜の王者トマトのこと

 

トマトが施設野菜の延栽培面穣のトップに返り咲いたそうだ。世界各国で重要な果菜である から格別不思議なことではない。トマトは野菜として重要なばかりでなく、作物研究の面でも 昔から重要な植物であった。有名なウェントの温度周期性の研究を始め、内外の多数の植物生理の研究がトマトを材料に行われている。医学の研究にモルモットが使われるように、トマトが「植物研究のモルモット」と言われる所以である。 基礎的な研究をもとに組立てられているトマトの栽培技術は、それ故にかなり進んでいて、 もう改良の余地はないようにも思えるが、物言わぬ植物のこと、 まだ判らないことも多く、あちこちで次々と新しい現象が発見され、新しい栽培技術が組立てられている。とはいえこの小著を必要とする農家は、世界に冠たる日本の施設園芸の中心をなすトマトの栽培で生計を立てているその道のプロである。生半可なアドバイスは必要なかろう。しかし油断していてはいけ ない。本当の意味で理論に則った栽培をしているのか疑問であることもままあるし、 新しい技術も次々生まれている。毎年変わる気象や土壌への対応も必要であろう。識らなければならな いことはなお山ほどあるはずである。そのことは著者とて同じであるが、まずは当方からお役 に立ちそうなアドバイスを提供しよう。 いずれ読者のハウスでトマトを目の前において、皆さんからの情報の提供も期待したい。

 

新井和夫

 

 

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エース会は、全国各地で「三菱ケミカルアグリドリーム農ビ」をご愛用いただいている施設園芸生産者と、 研究・普及機関、販売店、代理店並びに三菱ケミカルアグリドリーム(株)を結ぶ会です。 エース会では、施設園芸経営の発展をめざして、技術の指導、講演会や研究会の 開催、慣報誌の無償提供等を行い、これらを通してみなさまとの情報交換を行っ ています。

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 トマトの発芽、自信ありますか?1 自分の培土での箱播き

 

トマトは施設野菜の中で栽培延面積第一位で一年中日本のどこかで作られているありふれた果菜類である。 トマトの生育はまず発芽から始まるが、ありふれたトマトの発芽ではあってもうまい人とへたな人がいる。種子代も高いし、揃った発芽はその後の栽培にも好都合だ。 トマトの発芽、うまくいってますか?

 

●水・空気・温度

トマトの種子が芽を出す条件である。光と肥料は必要ない。ただ種子はキュウリなどと比べると小さいから、含んでいる養分も少ないので発芽後からは すぐ光も肥料も必要となる。 播種箱で、芽が出ない、不揃だ、枯れてしまう、 生育がよくない、発芽率が悪い、葉先が黄色だ、双葉が小さい、等々トマト栽培のスタートでつまずくことが跡を絶たない。それも毎年トマトを作っていて毎年同じにならない・・・、そんな経験も多いのではなかろうか。これらは皆、水・空気・温度の発芽の 三条件とそれに続く肥料、日照の条件がどこかおかしいからである。 どうしたらよいかは、原因が千差万別で一口にはいえないが、よくあるケースは次のような原因であ る。

 

●播種床の土がよくない

肥料の多過ぎ少な過ぎ、出の異常、堆肥の不足と

 

 

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腐熟不足、有害物の含有など

 

・水分関係    潅水不足・潅水過剰

・温度関係    低温・密閉による高温

 

灌水や温度以外は、培土に由来する失敗が多い。 自分で作った培土で毎年うまくいかないとなると購入培土を使ってみたり、セル成型苗を買ったりということになる。培土やセル苗を買って育苗すると決めた人は、省力にもなり、難しい技術も要らないのだからそれでよしとしよう。問題なのは自分でやりたい人の改善法である。

 

●良い播種培土を作る

まずは正攻法の改善策である。いろいろやり方は あろうが、無病の土に完熟堆肥を五割以上混ぜ、その一立方メートルに過石3キロ、苦土石灰3キロ、化成肥料(NPKそれぞれ10%くらいのもの)1.5キロを入れて 三カ月以上寝かせたものを使えば問題はなかろう。 この場合、問題が起こるとすれば、堆肥に肥料成分が多い場合だけである。土も肥料も計量してやるから間違いがない訳なので、堆肥に肥料分が不明の濃度で入っていたらお手上げである。このような場合 には、熟成した培土のECを計ってみて0.7ds/m くらいならOK、それ以上なら無病土を混ぜる、そ れ以下なら0.5キロほど化成肥料を混ぜる(一立方メートル 当たり)などの補正をすればよい。ちなみにPHは6.0~6.5(水)が適当である。

 

●播種と管理

播種箱に培土を入れ、十分に潅水して二~三日後に種を播く。この場合、排水が悪くなるので底に新聞紙などを敷かぬこと。覆土は砂で5ミリ厚、軽く潅水後新聞をかける。発芽時に光線は必要ないからである。温度を28~30℃に保ち、半分以上発芽し たら新聞を取り除く。発芽後は25℃ぐらいに保て

 

 

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ばよい。光が少ないと子葉下が長い徒長苗になるから要注意。表面が白くなり始めたら潅水するが、箱ごとのムラに注意する必要がある。この時期、乾かしたり、夜温を下げたりの、いわゆる締め作りをする必要はない。 発芽率がよく、生育が揃って(一箱の中も箱毎も)、双葉が大きく足が短かく、伸び伸び育てば播種箱内の苗としては成功といえる。あとは適期の鉢上げを待つばかりである。

 

 

 

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 トマトの発芽、自信ありますか?2 面白いもみがらくん炭箱播き

 

養液栽培のはしり、れき耕栽培が始まった昭和三十年代の後半、栽培はともかく育苗だけでも培養液を使ってできないかという研究が千葉農試で行われた。 ポリポットにくん炭を入れ、浅い培養液プールに 並べる湛液方式で多くの果菜が育苗可能であった。 こうしてできた苗を普通の土の栽培畦に定植するも のである。定植時の活着の難しさなどで、それほどの普及は見なかったものの、くん炭で育苗ができることの発見は貴重であった。

 

●播種床への応用

筆者は鉢上げから定植までは別として、多くの人 が失敗する播種箱だけでもくん炭と培養液を使ったらどうかと、多種類の野菜の種まきをやってみた。 その結果、育苗して定植する野菜については、果菜、 葉菜を問わずたいていのもので揃った発芽、良い初 期生育が期待でき、その後の培土への鉢上げ活着、 苗の生育も良好であった。その上都合のよいことに、 くん炭さえ準備しておけば毎年同じやりかたで同じようによい稚苗が得られる。今、はやりの技術の規格化、平準化がなんの苦もなく果たせるのである。 これはやらなきゃ”損”というものではなかろうか。

 

●もみがらくん炭作りのコツ

知っているようで意外に知らないのがくん炭の作 り方である。ただ、もみがらに火をつけて焼くだけ ではない。

 

 

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通常煙突を中心にもみがらの山を築き、中心部に 火を着けて焼くのはご承知のとおり。問題は山がまだらに焼けてきたその後である。この時点でかき混 ぜるのが普通であるが、混ぜたらもみがらの粒がつぶれるし、表面は灰になりやすく、よいくん炭とはならない。かき混ぜずに新しいもみがらを黒く焼けたところに足していくのである。朝から焼いて夕方までどんどん足して、つねに表面に黒いところが露出しないように山を大きくしていく。最後に一回だけ全部の山を混ぜ合わせると、表面の焼けてないもみがらも完全に焼け、しかも粒がつぶれないまま燃焼が完了する。時間がたつと灰になってしまうから 平らに広げ多量の水を散水して火を消す。この際も かき混ぜないほうがよい。

 

●くん炭の予措(使うまでの措置)

前述のように上手に焼いたくん炭でもPHをみると 10以上もあることが多い。アルカリ分を流すため 、消火のときに多量の散水をしてもPHは高い。こ れではまともな生育は望めないのでPH調節をする。 硫酸など危ないものを使わなくても乾いたくん炭に 過石を一立方メートルに2キロ混ぜるだけでよい。PHを下げ、 初期生育に必要なりん酸補給にもなり一石二鳥であ る。こうした予措を施したくん炭を袋に入れて保存 しておけば年中いつでも箱に入れて種を播くことが できる。

 

●くん炭箱播きのやり方

くん炭の準備さえあれば実に簡単である。播種箱 にくん炭を5センチ厚くらいにつめ、種をまき二分の一 濃度の水耕標準培液を十分潅水するだけでよい。覆土は1センチぐらい厚くてもよく、発芽までは新聞紙を おおっておく。以後は乾かないように潅水代わりの 前記培養液をときどきかければよい。潅水過多の害 は土よりは生じにくいから安心である。 適期になったら培土をつめたポリポットに鉢上げ

 

 

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するが、底に手を入れて苗を浮かせたら上から手で 引張って抜いてよい。くん炭を払い落とさず少量着いたまま鉢に植える。根の張りがよく痛みが少ない ので鉢上げ潅水後はあまり遮光などの注意をしなくても活着はよいはずである。 キュウリその他の果菜類、セルリーなどの葉菜類 もトマトに準じて行えばよかろう。 一度くん炭箱まきの味を覚えてしまうと今までの 苦労がうそのようで、病みつきになること受け合い である。

 

 

 

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 トマトの鉢上げ遅過ぎませんか?

 

トマトは茎や葉を伸ばしながら花を着け実を太らせて行く作物であるから、樹の生長と花や果実の生育のバランスが保たれる必要がある。とくに第一果房の分化と肥大はこのバランスのために重要である。 第一果房が7~10節ぐらいのところに分化し順調 に生育を続けないと、定植後茎葉が過繁茂となり、 その後の草勢の調節が難しくなる。

 

●第一果房の分化時期

前述のように果房が着生するのは本葉が7~10 枚の節位であるが、花芽分化時期はそのずっと前で あり、肉眼でそれを観ることはできない(けん微鏡では見ることができる)。眼に見えないために花芽分化のことを忘れてしまい、育苗管理がなおざりになりがちである。 さて、分化は発芽後何日目と決ったものではない。 温度などの環境が異なると発育のスピードが違うからである。日数よりも外見で検討をつけるべきで、 それは、本葉が二枚伸びて来て双葉より大きくなった時点から始まると思えばよいであろう。分化は始 まっても花数が増えたり、蕾が肥大したりするのは そのあとなのでその後しばらくは大事に保護してやる必要がある。

 

●花を飛ばさずよい果房をつけるには

温度・光・水・肥料などの条件がよくなければならない。地温・気温とも25~28℃ぐらいであれば理想的だが、高過ぎても低過ぎても花が飛ぶか異常になる。光は不足しないほうがよいし、水分も多過ぎたりしおれたりしたら花のためによくない。肥

 

 

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科も適度に効くことが必要だ。濃度障害(肥料の効き過ぎ)で花が飛んだケースもあるからばかにならない。とはいえ以上の条件は常識的なもので、素直に生育していればそれほど花つきの心配はなくても よいだろう。問題は以上の条件が順調だと思っていても花つきが不揃いで安定しない場合である。順調なのにうまく行かないこともある。

 

●移植はトマトにとって大手術である

トマトは移植の際の活着がよい作物であるから、 いつ鉢上げしようが苗の生育にはさして差は生じない。外見上は順調にみえる。ところが順調に見えてもトマトにとって移植は、細根や根毛がずたずたに切れる大手術であるから、花芽の分化発育の時期に実施すると、かなりのダメージを受ける。一方鉢上げは育苗面積を増やし、暖房や管理が大変になるのでなるべく遅らせたい。つい一番危ない時期に鉢上げすることになる。面倒でも第一果房の安定のためにはこの時期の鉢上げは避けてもらいたい。二枚の本葉が伸び三枚目が伸びないうちに鉢上げ活着が完了し、そのあと大切な第一果房の分化を迎えられるように、早い時期での鉢上げをやってもらいたい。

 

●セル成型苗の鉢上げ

セル成型苗はそのまま定植されることは少なく、 一旦鉢上げし、苗にしてから植えることが多い。この場合の花の分化は移植の前に起きている可能性も ある。ただセル苗は小量の培地に播種されているので、農家に配布された時には根鉢が巻いていて、抜き取って鉢上げしても根が痛むことはなく、トマト にとっての「大手術」とはならない。したがって移植のダメージで花が飛ぶことはないであろう。その点は安心であるが、だからといっていつ鉢上げして もよいという訳ではない。小さいセルは順調な生育のためにはもともと無理であり、肥切れや生育の停滞を生じるのでなるべく早く鉢上げする必要がある。

 

 

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 トマトの定植時期

 

キュウリでもトマトでも、果菜類は育苗してから 定植することが多い。「苗半作」といわれるように、 良い苗は良品多収の基礎であるから、苗作りに万全 の注意を払うことは勿論重要であるが、できた苗を 植付ける「定植時期」も負けず劣らず重要である。 良い苗ができたとしても、定植時期を誤っただけで その作が台無しになることだってあるのである。 トマトの定植時期は、キュウリよりもっと注意を しなければならない。早過ぎれば樹の勢いが強過ぎ て過繁茂となり、着果も品質も良くない。遅過ぎれ ば樹勢が弱過ぎ、形の良い果実は着くが収量が少ない。そのバランスをうまく保つのがトマト栽培のコ ツであるが、良い苗を作った上で定植時期でそれを 加減するのが最良の方法である。毎年過繁茂気味になってしまう人は第一果房の花が全部開花した時期、 同様に毎年木が細く樹が貧弱な人は開花初めの時期 に定植すれば良品多収の樹の姿に持って行くことができる。

 

 

 

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 セル苗トマト栽培のコツ

 

労力不足や老齢化が進み、苗を購入するケースが 増えている。数年前から本格的に苗が流通するようになり、現時点ではその量は一年間に十億本をまわるだろうと考えられている。つまり日本人一人当たり十本くらいは、すでに売り苗のお世話になっているということである。

 

●売り苗の問題点

苗を流通させる場合、重要なことは値段が安く、 小さいことであろう。一本当たりの値段が高いと、 家庭用はともかく農家が大面積に栽培する時に使う訳にはいかない。また大きい苗では運搬が不可能で ある。そこで安い、小さい苗を流通させるために、 先進国である欧米にならってセル成型苗として普及をみたのである。 葉菜類(レタスやキャベツなど)や花類の苗は、 流通している小さいセル成型苗を買ってきて、その まま定植しても従来の栽培とさほど変わらずに行える場合が多いのであるが、果菜類では問題がある場合がある。もっとも問題が多いのがトマトではなか ろうか。

 

●トマトの樹勢の調節

トマト栽培のポイントは、よくいわれるように生殖生長と栄養生長のバランスである。要するに花や 果実がよく着き、それを十分太らせるための茎葉を作ることである。とかくトマトの施設栽培は光線が不足しやすい時期が多いこともあって、茎葉だけがよくできる過繁茂になりやすい。過繁茂のトマトは 収量が少なくなることも問題があるが、なによりも

 

 

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品質の低下が著しく、乱型果、空洞果、すじ腐れ果が多発する。それでは経済的な栽培は成り立たないから、トマト栽培においては、多くの農家が「過繁茂防止」を技術のポイントと考えるのは当然といえる。 過繁茂になる要因はいろいろあるが、若苗の定植も重要な原因である。したがって自分で苗を作る場 合にも、育苗の方法とともに定植の時期に十分な注意をはらい、若苗を植えないように注意していたも のである。 トマトのセル成型苗は当然のことながら、肥料のよく効いた若い苗である。それをそのまま定植すれば過繁茂になりやすいことは当然である。しかしながら接ぎ木苗を含めて、トマトのセル成型苗化は今 後とも進むであろうから、良品多収のためにはなん とか作りこなす技術も見出さなければならない。

 

●セル成型苗の利用方法

今のところ最も確実な方法は、購入した苗を育苗鉢に鉢上げして従来と同様に熟苗になるまで育苗してから定植する方法である。この方法をとれば購入苗にしたからといっても従来と同様の栽培法で何ら問題は生じない。せっかく苗を買ったのにまた育苗のやり直しをするのは面倒だとの考え方もあろうが、 熟苗の定植とセル成型苗そのままの定植では一ヵ月以上の日数の違いがあるから、例えば寒い時期だとすると一カ月間、広いハウスを暖房し、管理しなければならない。鉢上げすればせまい育苗ハウスだけの管理でことたりる。案外と経済的なのである。

 

●トマト栽培の将来

抑制栽培や早い促成栽培などでは定植期が寒くない時期であるから、暖房や管理に問題が少ない。こ れだと購入苗を直接植えて省力を図りたいと考える のも当然である。会社によっては「直接植えてもよいトマトになります」といっている苗もあるようだが、今までの栽培法ではやはり心配である。そのた

 

 

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めの栽培法はまだ確立されていない。どうしても植えたいようであれば、元肥を極力少なくし、活着後の潅水を控えてある時期まで(第三果房開花のころ)生育を抑えて行くしか方法はないであろう。 将来的にはまず直接定植しても過繁茂にならないような品種が登場するであろうし、栽培法も検討されるであろう。セル成型苗の過繁茂が問題なのもこの二、三年だけのことかも知れない。 なお、トマトと同様に若苗定植が問題となるもの にナス、ピーマンがあり、若苗を植えても大丈夫と思われる果菜類はキュウリ、メロンなどがある。はじめてセル成型苗を使うときの参考にしていただきたい。

 

 

 

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 一条並木植えのススメ

 

トマトのハウス栽培で日照が必要なことは、ことあるごとに言われている。ところが、トマトは一年中 日本のどこかで栽培され、市場に出荷されているので、必ずしも十分な日照のハウスでのみ作られているわけではない。 太陽の光の多少は季節とその年の天候次第で、人為的には調節できない。日照が不十分なときはそれなりの対策を考えた作り方が必要である。また日照が強い夏の栽培でも、栽植本数や栽植方法によって は相互遮へいのために群落の下層まで陽光がとどか ないこともある。

 

●まずは栽植本数が問題

いかにきれいなフィルムを使い、日照を考えたハウスでも単位面種当たりに多数の苗を植えれば十分 な日照を各株に与えることは不可能である。逆に、 いかに悪い条件のハウス環境でも、3.3平方メートル当たり例えば一本程度の本数なら日照不足による不都合はまず生じない。 良好な生育と収量とをバランスにかけ、丁度よい ところに本数を設定しなければならない。 高品質・多収の見地から3.3平方メートルの本数は次第に少なくなり、丸トマトであれば現在八本をやや 下まわるくらいのところに止まっているようだ。 筆者もあらゆる栽培においてこの平均的本数は妥当なものだろうと思っている。多過ぎれば日照不足 の害が露呈するし、少な過ぎれば全収量の減少をも たらす限界の本数と思われるからである。

 

●本数は同じでも植え方が問題

3.3平方メートル当たり八本(10坪当たり2400 本)と本数は決まっても、実は日照条件は同じとは

 

 

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限らない。全ハウスに均等にバラ植えにすると仮定すると、畦幅・株間とも65センチ四つ目植えとなるが、 これでは歩くすき間もないし、葉が四方に広がり、 下層への日当たりも全面で良くない。 それで普通は畦間180センチ、株間45センチぐらいの 二条の抱き畦にする。これで歩き易く、通路には日 当たりの良い植え方とはなるが、通路でない抱き畦の間の日照は悪いままである。

 

●一条並木植とは

3.3平方メートルに八本を守りながら日当たりの良い 植え方はないものであろうか。万全を期すにはもっと本数を減らすしかないことになるが、それでは品質は好くなっても収量を挙げることは難しい。苦肉 の策として登場したのが一条並木植である。キュウ リではすでに全国に普及している栽植方法だが、ト マトでも次第にその有用性が認められ、広がりつつ あることは提唱者の一人として喜びに耐えない。 さて実際の植え方は畦幅125~135センチ、株間 30~33センチの一条植が実際的である。5.4メートル間口 のハウスであれば四畦しか入らない。そのかわり長 さ50メートルのハウスでも縦方向に向こうまで見通せる。 日当たりがよく風通しもよいから、品質の向上ばか りか病虫害が減って減農薬栽培の一助にもなるものと期待している。株間は30センチに近く、この方向だ け見るとかなりの密植である。この犠牲の上に立っ て130センチという広い畦幅を得たものであり、良くできたハウスをみると、刈り込んだ生け垣のように みえる。 この植え方を南北方向のハウスで実行すると一日 中各株の上下にまんべんなく日が当たると同時に、 地面にまで日照がとどき、とかく不足勝ちな地温の 上昇にも役立っていることが判る。 果房の引き出しも加えて行えば、空洞果などを少 なくして品質・収量に大変よい効果を与えているこ とが自から理解されよう。

 

 

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 たかが水、されど水

 

トマトを経営的にも栽培技術的にも上手に作り (あるいは経営し)儲かる生業とするためには、多数の条件が揃わなければなるまい。そのなかのたった 一つの条件「水のやり方」は「たかが水」であって、 水のやり方が上手なだけではトマト作りが儲かる生業とはならないことは誰でも理解できる。 しかしながら、その他の多数の条件がすべて十分 でも「水やり」が非常に下手であれば、それだけで トマト栽培(経営)そのものが全くダメになってし まうことも事実である。このことはメロンとともに 野菜の中では双壁とも思える。 「水やり」が他の野菜より重要だという意味ではま さに「されど水」と言ってもよいのではなかろうか。

 

●定植前のハウス土壌の水分

過繁茂を嫌うトマト作りでは、定植時の土壌水分は乾いている方がよい、としばしば誤解される。乾いた土へ定植するとなぜいけないのか?それはいかに過繁茂を嫌うトマトといえども枯れてしまっては困ることからも理解できる。枯れないように水をやる。多量にやるとでき過ぎ(過繁茂)になりそうだから少量しかやらない。従ってほどなくしおれる。 また水をやる。何のことはない。枯らさぬように常に水をやるため、返って過繁茂に近づいてしまう。 また少量多回灌水は根の近くにしか水が行かないから根圏の浅い生産力の低いトマトになりやすい。 それでは底土までたっぷり湿った土に植える方が よいかというと、これでは活着はよいにしても、その後、締め作りしようにも水が多過ぎて抑制が効か ない。どうしたらよいのか。理想的な水分状態は、 定植かなり前(時期や土質で異なるが約一ヵ月前ぐ らい)に底土まで湿るほどの潅水を行って毛管が連

 

 

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がった状態から次第に乾かして行く。表土がかなり 乾いたところでマルチを施し定植を待つのである。

 

●定植前の苗の水管理

これも過繁茂をおそれるあまり、育苗の全期間に 渡り乾き気味に管理し、締めに締めた苗を作る人が いる。これは違う、と筆者は思う。徒長しなければ 定植直前までスンナリ育つように水をやりたい。 さてそのままの状態で定植に向かうと問題が生じる。定植のハウスは環境がきびしいから、軟弱な苗は順調な活着・生育が難しい。そこで硬化(ハード ニング)という操作が行われる。ハードニングは低 温、水切り、風通しなどで行うのが普通であり、特に水切りで苗を丈夫にし、厳しい環境でも枯れるこ となく、順調な活着・生育をさせる準備をするのがよいのである。

 

●定植後の水管理

植穴に小量の潅水を一日前にやっておき、植えた 後も根まわしの潅水をして土を落ち着かせる。前述 のハウス土壌の事前水管理を実行していれば、かなり乾いてはいるもののこれで毛管が連がった状態となり、その後あまり潅水をやらなくても枯れることはない。活着後、晴天のときには多少しおれることもあろう。そこをガマンするのが深い根を張らせ、 次に続く締め作りをスムーズにさせるコツである。 地温不足の心配がなければ、一たん施したマルチうわれ を寄せて、上根を張らせないことも高等技術として 必要かも知れない。深い根は締め作りを容易にする とともにその後の良品多収のために是非必要な条件 であることは言うまでもない。

 

●第三花房開花時からの水管理

この時期から追肥とともに潅水を多くする。第一花房の果実はかなり大きくなっており、水を与えても過繁茂のおそれがなくなったからである。 いかにトマトであってもその後の潅水が少な過ぎ ると収量が減ってしまうのはすでにご存知であろう。

 

 

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 トマトの果房に日光を当てよう

 

 

●トマトは光が好き

緑の葉をもつ植物は、すべて光が無くては生きていられない。そうは言っても種類によって好きな光の強さはいろいろであり、トマトは葉の表面で5 ~6万ルクスとかなり強い光を必要としている。 冬のハウス内の光は、2~3万ルクスもない場合もあり、トマトは慢性的な光不足の条件に置かれて いると考えてよい。光を人工的に増やしてやることは経済的に不可能であるから、少ない光を有効に利用する栽培技術が農家に求められているのである。 汚れの少ないフィルムを使い、筆者らが日ごろから 唱えている「一条並木植え」を行うのも一方法であろう。 ともあれ光の好きなトマトのこと、まずは樹全体 に光が十分当たる栽培管理を考えてもらいたい。

 

●光はなぜ必要なのか?

誰に聞いても、「葉で同化作用をするために必要 だ」と答えるに決まっている。だから光は葉に当たら なければならない。では、「果実に光が当たらなくて もいいですか?」と聞かれたらどう答えるか。 「光が当ったほうがよいと思う」 「なぜですか」「なぜだか判らないが、肥大や着色 がいいのでは…」とあいまいになる。 答えは正解だが、なぜだか判らないのでは心もと ない。

 

●光が当たれば果実の温度が上がる

果実の肥大や着色には、光自身はほとんど直接的 な必要性はない。それなのに「必要だ」と言うのは間 接的な影響、「温度の上昇」が生じるからなのである。

 

 

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温度が上がるといかなる植物でも生育が早くなる (この場合、果実の肥大がよくなる)。肥大には養分 が必要であるが、光が当たって果温が上昇すると日 が当たらない果実に比べて養分の集積が早い。 また、果実の着色はリコピンと言う色素であるが、 リコピンの発色は光とは関係なく、高温によるのも 肥大の場合と似ている。要するに果房に光を当てる ことは肥大を良くし、着色を早める結果となるので ある。

 

●日光をあてる栽培管理

トマトの上手な農家は、木ボケにしないで着果と 草勢のバランスを上手にとることをいつも考えてい る。そのためには樹全体に十分光を与えなければ… と言うことも知っている。その上でのワンポイン ト・アドバイスをするとすれば「果房への日当り」 を上げたい。まず果房を日当り側に引出して採光を計る。それでも過繁茂気味で葉の下に隠れるときには、上にかかる葉を半分か一枚摘葉する。そうすることにより果温が上昇し、肥大と着色が良好となる。 副産物として空洞果が少なくなることも期待してよいであろう。養分の集積がよいことから当然の結果である。 産地の皆さんが口ぐせのように言う「良品・多 収」を達成する一つの有力な方法が「果房への日当 り」をよくすることなのである。

 

●何事にも例外はある

促成や半促成の後半は高温期となるし日の光も強 い。草勢が衰えたり葉も巻いている。このような時 期に果房に日光を当てると日焼け果となって売り物 にならなくなってしまう。 「日焼け」は日光の中で紫外線が主に働いて生じる ものであるが、いずれにしろ逆に葉で光を遮ること により少なくすることができる。肥大や着色のため の温度も高過ぎるくらいの時期であるから積極的な 果房の遮光が逆に良い結果をもたらすのである。

 

 

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 トマトの空洞果防止法

 

トマトの空洞果は、乱形果とともに生産物の秀品 率を低下させる一大要因である。空洞果が全部商品 にならないわけではないが、品質を低下させ平均単価を下げてしまうので、儲かる栽培とはならない。 空洞果発生の原因と対策を考えてみよう。

 

●空洞果の発生条件

①過繁茂

②日照不足

③ホルモンの効き過ぎ

以上の三条件が空洞果発生の主要な要因といって よい。 過繁茂は多肥・若苗定植・多潅水・多湿などで生 じ、着果そのものが少なくなると同時に空洞果を多 発させる。 日照不足は曇天、ビニールのよごれ、密植による 相互遮へい、などが葉や果房への日当たりを悪くし、 空洞果の原因となる。 ホルモンは、濃度の高過ぎ、二度がけ、つぼみへ の散布、高温時の散布などで効き過ぎが生じ、果実 の肥大スピードが早過ぎて空洞果になるものと考え られる。

 

●空洞果の対策

若過ぎる苗を定植することを避け、生育前半の生 育を抑えることで過繁茂にならないようにする。栽 植本数を減らし、一条植えとすると過繁茂も防ぐと ともに日光の透過も良好にすることができる。 よごれにくい新しいビニール下で栽培することは 当然として、ホルモンの散布も安易に行ってはなら

 

 

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ない。所定濃度を守り、開花後の花になるべく涼し い時間帯にかけるようにする。またホルモン散布を 止め、振動受粉や昆虫受粉(マルハナバチ)で受精 させることも今後考える必要があろう。 以上の注意を守っても生ずる空洞果は、なるべく 早期に摘果して他の健全な果実の肥大を助けると、 秀品率は飛躍的に向上するものである。

 

 

 

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 甘いトマトを作るには

 

世の中グルメブームで、めずらしいもの、うまいものは高くても消費者が買う時代である。野菜類でもハクサイやダイコンが減少して、メロンやイチゴが増えている。メロンやイチゴであればなんでもよいわけではなく、甘いメロン、うまいイチゴでなければ見向きもされないのである。うまいから食べる野菜、つまり果実的野菜とはみられていないトマトでも甘いトマトが高値で取り引きされるようになった。聞くところによると一個500円とか。むろん今のところは数量が少ないので、希少価 値で特別な価格で売られているのであろうが、糖度の高い「桃太郎」やミニトマトも人気を得ていることから見ても、甘いトマを求める消費者の声は今後とも少なくなるとは思えない。甘いトマトはどうしたらできるのだろうか。まずは甘くなりやすい品種を選ぶことである。「桃太郎」は普通に栽培しても多品種より糖度が高いから候補
品種の一つであろう。次に栽培的には水分ストレスを大きくすることである。つまり乾かして栽培するか、塩水などの吸水を阻害するものを根から吸わせるのである。いずれの方法も茎葉の生育や果実の肥大も阻害するから収量は少なくなる。糖度8~10度以上のトマトが確実に収穫できるように土を乾かすと、収量は半分か三分の一に減少してしまうのである。甘いトマトの価格が、2倍か3倍以上に売れないと収支償わないことになる。

収量をあまり減少させないで甘いトマトを作る方法はないものであろうか。一番よい方法はとびきり甘い品種を作り出すことであるが、それは何年後のことか分からない。今のところは深い、有機物の非常に多い土を作り、その上で乾かして栽培すること が最良の方法である。そのほかトマトをすべて一段

 

 

 

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果房で摘心し、果実の肥大後期だけ一斉に乾燥させ て甘い果実を採る方法が、栽植本数を多くでき、回転を早くできるので多収が可能なのではないかと注 目されている。

 

 

 

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 トマト秀品率100%の秘けつ

 

 

●第一果房開花後に定植

商品として出荷するにしろ、家庭用にするにしろ、 形の良い大きいトマトがそろって成るに越したこと はない。ところが実際には、そういった良いトマト (秀品)が100%になることはない。 ひどいときには50%以下ということもまれではなく、特に商品生産を目指す場合は、たとえ収量が 多くても収益にはつながらない。なんとか秀品率を 上昇させる方法はないものであろうか。 トマトの形や大きさは苗の時代から決まる。まず、 肥料の効き過ぎや潅水の過多、低温などに合わせないように素直な苗作りを心掛けることである。そして若苗定植を避け、第一果房の花が十分開いてから 定植する。 本圃の初期は肥料と水を控え、抑え気味に生育させる。このように管理して行くと形の良い果実が着くようなトマトに育っていく。逆の管理をすると鬼 花による乱形果や空洞果が多くなり、秀品率が下がってしまう。 第三果房が開花するころは、第一果房の果実の肥 大速度が最大になってくるが、このころから追肥と 潅水を行い、果実を大きくするように管理を変える。 形の良さと大きさを両立させるわけである。 ホルモンのかけ方も大事で、完全に開花した花にのみ、所定の濃度のものを一回だけかけるようにす る。濃度が濃い場合や二回かけた場合、また、つぼみにかけてしまったり、温度の高いときにかけた場合などでは、奇形果、空洞果が多発して秀品率を下げることになる。 果房には、良く日光を当てるようにする。日陰の果実は太りも悪く、空洞果にもなりやすいものであ

 

 

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る。果房に日を当てるには一条植えを励行するとともに、果房を日の当たる側に引き出す。それでも十分でないときは、上に被さる葉を半分か一枚摘葉すると効果的であろう。

 

●不良果を早く見つけて

このように十分な注意をして栽培してもなお秀品率を100%に近づけることは難しいことであり、 売りものにならない、くず果が何%か混じってくる。それらの種類と発生する原因は次のとおりである。

▽乱形果  丸くない、ワラジ形のものや二、三果くっついた形のもので、肥料の効き過ぎ、低温、多潅水が原因 とみられている。

▽空胴果  果肉やゼリー部が少なく、中に空胴を生じるもの で、過繁茂、日照不足、ホルモンの効き過ぎなどが 原因。

▽小果  形は良いのに小さ過ぎて商品とならないもので、 着果過多、ホルモンが効かない、樹の生育不良など が引き金となる。

 

 

 

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い。奥の手はこのよ、 てしまうことである。

▽すじ腐れ果   外側の果肉のすじ(維管束)が茶色になり固くて 食べられなくなるもので、日照不足とチッ素の効き 過ぎが原因。

▽その他  網入り果、窓あき果、肩緑果、尻腐果など。

これらさまざまな果実は、多少とも必ず生じるも のなのだが、それでは秀品率は100%にはならな い。奥の手はこのような果実は見つけ次第取り去っ 不良果を取り去ってしまえば、収穫する果実は全 部秀品となることは当然であり、秀品率100%は 簡単に達成できるのである。 そこで心配になるのは、そんなに不良果を取って しまうと収量が少なくなりはしないかという点と労 力がかかることだろうが、その心配は無用である。 よくできた樹であれば、不良果を取り去っても残り の果数は十分あり、それが大きくなるから収量減は それほどでもないし、また、不良果でも赤く熟せば 収穫しなければならないので、むしろ小さい間に 取って捨てたほうが労力も少なくて済むからである。 トマトはよく見まわって、良い果実だけを一果房 に五~六個残すようにして、秀品率を100%に近 づけるようにしよう。

 

 

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 土壌消毒のあとには完熟堆肥を

 

ビニールハウスの野菜も、連作を重ねると生育が 不良になるのが普通である。いわゆる連作障害であ る。 連作障害の一番多い原因は土壌病害であるから、 そのまま栽培を続けるためには病害の対策をたてね ばならない。病害対策には

○薬剤による消毒

○太陽熱消毒

○蒸気消毒

○耐病性品種

○接ぎ木栽培

などがあり、クロールピクリン等による土壌消毒が よく行われる。 薬剤による土壌消毒は、十分な薬量と適切な消毒 法で十分に効果が出るように実施する必要があるこ とはいうまでもないが、ここに困った問題がある。 消毒は完全にやればやるほど、病原菌も死滅するが その他のもろもろの微生物も死んでしまう。もろも ろの菌の中には、肥料を分解してくれる菌もいれば、 根を病気から守ってくれる菌もいる。それらが死ぬ ことにより、アンモニアの集積害(硝酸態窒素に分 解する菌が少ないので)や、土壌病害が逆に多発す るような予期せぬ事態を招くことがある。折角の消 毒がアダになるわけである。 こんなことにならないようにするには、消毒、ガ ス抜きのあとに無病の完熟堆肥を少量(2~300 キログラム/10アール)散布混入することである。10日もす れば有用菌は復活して安心して栽培ができるように なる。 消毒後の完熟堆肥の施用は、ハウスの土壌管理の 常識と思ってもらいたい。

 

 

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 石灰欠乏症 地温下げ、灌水にも注意

 

良くしまった大きなハクサイを、いざ、すきやき に入れようと包丁で真っ二つに切ったら、中が真っ 黒に腐っていた……。 最近こんな話をよく聞く。以前はそれほどでもな かったのに、なぜか。収穫してから食卓にのぼるま で、外見上は上等なハクサイに見えるだけに、始末 に困る障害で、これが野菜の石灰欠乏症なのである。 ハクサイに限らず、レタス、イチゴ、トマト、キュ ウリなど多くの野菜で石灰欠乏による障害が出る。 野菜はたくさん石灰を必要とする作物だから、石灰 欠乏症も発生しやすいのである。 ハクサイは球の芯が黒く腐るのでアンコ、レタス やイチゴは若い葉の先端が枯れるので縁腐れ、トマ トは果実の尻(先端)が腐るので尻腐れとも呼ばれ ている。なぜ、こんなに石灰欠乏症が出やすぐなっ たかは、石灰欠乏の現れる仕組みからみていかない と分からない。 石灰欠乏は土の中に石灰が少ない時には当然出や すいのだが、野菜園やハウスの土壌を調べてみると 石灰が少な過ぎることはまれで、むしろ多過ぎるこ とが多い。それなのに石灰欠乏症が出るのは、たく さんある石灰を根が吸収できないからなのである。 石灰の吸収を妨げる原因は、

①気温・地温が高過ぎる

②土が乾き過ぎる

③肥料、特にチッ素やカリが多過ぎる

④根が弱っている

⑤堆肥が少ない

⑥生育が早過ぎる

など。 近年これらの原因を作り出す無理な栽培が多く

 

 

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なったので障害が増えたのである。これらの原因は たった一つでも欠乏症になる場合もある。いくつか 組み合わさってひどくなることが多いようだ。高温 で乾燥する時期に発生が多いのでマルチ等で地温を 下げ灌水を行い、肥料を急にたくさん効かせないで ゆっくり育てるのがコツである。堆肥を十分入れて、 下げ灌水を行い、肥料を急にたくさん効かせないで ゆっくり育てるのがコツである。堆肥を十分入れて 根が張る良い土作りを日ごろから注意しておくとよ い。

 

 

 

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 速成床土のつくり方  鉢上げの日でも大丈夫

 

野菜づくりは育苗してから植付けることが、非常 に多いことはご承知の通りである。トマトやキュウ リのような果菜類はもちろん、葉菜類でもレタス、 ハクサイ、キャベツ、ネギ類その他が苗を植えてい る。 これらの中でキャベツ類とネギ類は活着しやすい ので、育苗床から苗を抜き取って、土をあまり根に 着けずに本圃に定植している。しかし、その他のも のは鉢で育苗して、根に鉢土を着けたままで植える ことが多い。 鉢育苗の場合の土を床土(または鉢土)というが、 良い苗をつくる場合に、良い床土がなければならな いことは当然である。いまトマトを10アール栽培する と仮定すると、3000の苗を準備する必要があ り、12センチの鉢で育苗すれば2立方メートル(約2トン)、15センチ

 

 

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鉢で育苗する場合等は少な目とすればよいであろ う。使用する土や堆肥の硯や肥料分もさまざまなの で苦土石灰やスーパーIBの量で加減してほしい。 多くの野菜や花の育苗でもこの処方は使えるので、 まず少量つくって試してから本格的な使用をするこ とをお勧めする。

 

  

 

 

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